古代エジプトファイアンス技法の試み

 古代エジプトファイアンス(Ancient Egyptian Faience)は、約6500年前にその製法が見いだされ、ラピスラズリなどの貴石に似た風あいの造形物が作れることから護符や小像、ネックレスなど、副葬品としてもたくさん発見されています。しかしながら、ガラス製法が発見されたためか紀元後2世紀頃からはエジプトで作られることはなくなってしまったようです。

 その製法の再現をめざして研究がなされていますが、当時の製法が明確に解明されたとは言えない状況です。 私はこの古代エジプトファイアンスに独特な特徴~ガラスに比べて軽く、割れにくい。比較的低温で焼成することができ、造形物の表面が自動的にガラス層で覆われる など~ に興味をもち、その技法の再現を試みています。

 古代エジプトではピラミッドなどを作るのに石材を銅製の道具で切り出していました(鉄器がまだ発見されていなかったため)。その石粉と銅の酸化物が窯に付着したアルカリ分やカルシウム分と混合して焼かれたとき、たまたま鮮やかな青色の着色物が見られたのがきっかけと言われています。

 再現実験では、関連論文などを参考に、条件を変えて何度も試作しています。鮮やかな着色はわりと簡単に得られるのですが、造形方法やきれいな表面形状にすることに苦労しています。粘土を使った陶磁器と違って、それよりは粒の粗い石粉を用いているため可塑性、つまり粘りがなく成形は困難です。

実際のファイアンスを見てみたいという方は、東京都内では、次のところに展示があります。

 ・中近東文化センター (三鷹市) カバ像(愛称ルリカ)が展示されています

 ・東京国立博物館 東洋館 (上野公園) 展示例 1 2 3 (展示は都度入れ替えになります)


国立ベルリン・エジプト博物館蔵 古代エジプト展  2020.11.21-2021.4.4 江戸東京博物館で開催
  の展示から何点か掲載します(写真撮影OKでした)  

・野ウサギ 【中王国時代】  スフィンクスのようにかがんでいる
・スカラベ 【新王国時代】  フンコロガシは再生の象徴とされていた
・ヒヒ   【末期王朝時代】 知恵の神トトの化身とのこと
・ネックレス 【新王国時代】 ロータス(睡蓮)はエジプトの国花になっています
・浅鉢   【新王国時代】  描かれている3匹の魚は頭を共有しています




ファイアンスの製作技法として ①白華技法 ②浸灰技法 での製作例を紹介します。

①白華技法(Efflorescence Method)

 文献A を基本に製作しました。
 製作工程の概要は:
  1.珪石粉、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムと金属化合物を混合
  2.水でよく練り造形
  3.乾燥させたのち、電気炉で焼成(900℃、2時間)

 金属化合物(金属イオン)の種類により以下のように色を変えられます。

Cuイオン   上:Co 下:Cu+Fe   


Cu+Fe+Mn   金属イオンなし 



混合物中のアルカリ成分などが表面に白い粉状に析出するため白華と言われています。下図は銅化合物を用いた場合で、焼成すると白華した部分が鮮やかな青色に変化しています。断面を見ると表面を覆うように著色したガラスの層ができているのがわかります。


②浸灰技法 (Cementation Method)


 文献B を基本に作製しました。
 製作工程例の概要は:
   1.珪石粉と長石粉を混合し、水で練り成形体を作製
   2.珪石粉、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化カルシウムと酸化銅を混合しグレーズ粉を作製
   3.せとものの器にグレーズ粉を敷き、その上に成形体を置く(下写真左)
   4.その上にグレーズ粉をかぶせて焼成(960℃、1時間)
      冷却後、かぶせた上部のグレーズ部分を取り除いたのが右の写真です


 焼成前後の様子 



色むらや表面のあばた(凸凹)の解消等が今後の課題です。

【文献】
A: The Technique of Egyptian Faience, Joseph Veach Noble, American Journal of Archaeology 73, 4 (1969) 435-439.
B: Egyptian faience glazing by the cementation method part 1: an investigation of the glazing powder composition and glazing mechanism, Mehran Matin, Moujan Matin, Journal of Archaeological Science 39, 3 (2012) 763-776.

わかりやすい解説
 「ファイアンス」とは?:山花京子著 西アジア考古学 第6号 2005年 123-134頁 
  (google検索で、ファイアンス 山花京子 とすれば、pdfファイルが見つかります)

【製作例】 Creemaに出品中




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